はじめに

I n t r o d u c t i o n

務医のつらい日常から脱出したい、しかし独立開業して成功できるか不安 ―そんな悩みを抱える医師は多くいます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によれば、医師の40.0%が1週間に「60時間以上」の勤務をしています。長時間の勤務により、医師の45.5%が「睡眠不足感」、49.2%が「健康不安」を感じています。また、大学病院の勤務医であれば、教授にならない限り給与は低く、30代の年収は600万~700万円程度に過ぎません。今後、診療報酬の切り下げで医療機関の収入が減少すれば、勤務医の給与がさらに下がることも予想されます。
病院での過酷な勤務とそれに見合わない待遇もあって、開業医を目指す医師は少なくありません。しかし、独立開業して成功するのは容易ではありません。

療科目によって異なりますが、土地を借りて一般的な内科クリニックを開業するためには、建物の建設費として4000万円以上、医療機器や設備に最低1500万円程度が必要です。その他、スタッフの採用に関わる費用なども含め、少なく見積もって6000万円程度はかかります(三菱東京UFJ銀行試算)。

一般の勤務医がそのすべてを自己資金として用意するのは困難ですが、幸い、医師は収入が安定しているとされるので、銀行が積極的に融資してくれます。そのためほとんどの医師は借入により資金を賄っています。実際に日本医師会の調査(2009年)でも、2004年以後に開業した医療機関の85.8%は開業に当たって何らかの借入をしていることがわかっています。

金を抱えてスタートしても、収入が増えていれば問題はありません。
しかし、診療報酬や薬価の改定により、医師の収入は右肩下がりです。
しかも、開業すれば必ず患者がやってくるわけではありません。特に都市部では競合クリニックが多く、立地によってはせっかく開業しても患者が集まらず、借金の返済もままならなくなり、倒産するクリニックが少なくないのです。

務医時代の激務から逃れ、自分の理想の医療を目指して開業したものの、その多くは返済に追われ、資金繰りに煩わされ、医療業務に集中できない状態に陥ってしまうのです。

難関の医学部入試を突破し、長年の研鑽を経てようやく医師になったというのに、勤務医は多忙で神経をすり減らすばかり。それではならじと開業しても、今度は経営という別の難題が降りかかってきます。医師といっても安泰ではいられないこのご時世、医師としての理想的な働き方を実現する道はないのでしょうか。

は経営コンサルタントとして、これまで300以上の経営改善を手伝ってきました。開業準備から開業、その後の経営までコンサルとして関わり、あるクリニックでは5年間で約9万人の患者を集めるなど、多くの医療機関の経営を軌道に乗せることに成功してきました。
その経験からいえるのは、開業したいクリニックの建物を地主に建て貸ししてもらうことで、大きな借金を背負うことなく、リスクを極力減らしてスタートできるということです。このスキームを使えば、たとえ自己資金がゼロであっても、開業をあきらめる必要はありません。

書では、これまで私が携わってきたクリニックの事例を中心に、地主に建て貸ししてもらうためのコツや家賃設定、収支シミュレーションを詳細に解説していきます。また、開業後の経営管理業務を外部委託することで経営の安定を図り、なおかつ医師が返済や資金繰りに煩わされることなく、理想の医療を実現する方法についても紹介します。
私が開業と経営をお手伝いしたクリニックの多くは、自己資金ゼロ、ノーリスクで開業したうえに、開業後も経営管理面の悩みを抱えることなく、高収入と理想の医療を両立してプライベートも充実―そんな〝いいとこ取り?の働き方を実現しているのです。
本書が、患者のために日夜働いている医師の悩みを解決する手がかりとなれば、著者として望外の喜びです。

著者:市川 直樹